葉巻の特徴、または葉巻が喫煙者に与える印象は、その香りと味わいで決まってくる。口の中の味蕾は鼻よりも繊細であるため、葉巻の味や風味は喫煙者にとってのインパクトが最も強い。そのため、ほとんどの喫煙者は味で特定の葉巻が好きか嫌いかを判断している。 味の判断は人によってそれぞれ異なる。人は好き嫌いが違うだけでなく、特定の味の強さに対する印象も違う。葉巻はさまざまなたばこ葉の組み合わせでブレンドされているため、人によって判断がさらに違う。誰かにとっておいしい葉巻はその人にとって魅力的なブレンドかもしれないが、違う人にとってはおいしくない可能性がある。 味の悪い葉巻は、発酵が不十分なたばこだけであることを覚えておいてほしい。そのような葉巻はすべての喫煙者の間で「おいしくない」と合意ができる。 葉巻の味や風味は、その製造に使用されたさまざまなたばこ葉で構成されている。葉巻のブレンドは、単純な一種の一次元の味、または異なる味の組み合わせでできた複雑な味がある。大多数の喫煙者が良い味のブレンドと見なしている葉巻は、通常にバランスの取れたブレンドであり、シンプルすぎたり複雑すぎたりしない。
上記の味覚チャートに示されているように、4つの基本的な味の組み合わせは、葉巻に独自の味わいまたはフレーバーの特徴を与えている。 砂糖水の甘さなど、基本的な味がわかりやすいかもしれない。 ただし、複雑なブレンドの葉巻はフルーティまたはベリーの甘さを使ってより繊細な甘さを表現する傾向がある。 魅力的な風味を持つ葉巻を見つけるには、喫煙者が自分の好き嫌いをよく理解することが大切である。それを理解すると、最も好きでよく吸いそうな葉巻かどうかの判断が簡単にできる。 一方、特定のブランドのメーカーにとって、消費者に毎回同じ味を提供することは非常に困難である。なぜなら、たばこ葉の成長と葉巻の生産は、天候など人間が完全に制御できない要因に大きく影響されるからだ。
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あなたの葉巻の嗜好はひとまず横において、葉巻の品質で考える時、あなたはなにを基準にして葉巻を区別するだろうか?そんなに深く思い悩まなくても、たばこ葉、そして、葉巻の作りという2つの要素が、葉巻の質を決めるための基準である。そう、葉巻はこの2つの要素からもたらされる一貫性によって、その質を判断することができる。まずはよいたばこ葉、そしてたばこ葉から葉巻に形成する技術。両方の要素が等しく作用して、初めて質の良い葉巻が生まれる。 確実な技術のうえで葉巻を形成することは、必要な設備と熟練した葉巻職人が必要であるが、常に職人を育てる意識を忘れないでさえいればメーカーにとって難しいことではない。葉巻を形成する工程はほぼ完全にコントロールできるからである。条件を備えた環境のなかで作られた葉巻は間違いなくなめらかに燃える。 しかし、もうひとつの大事な要素である良いたばこ葉の生産については話が別だ。たばこの質は、多くの要因の影響を受けるからである。種の持つ天性の質、土の持つ質と畑の条件、一定ではない気候の変化はもちろん、温度、湿度、そして、それに影響を受ける発酵の過程も関わるからだ。その上、すべての要因が最高の状態で機能し、それを利用できる能力と設備を兼ね備えているたばこ農家であっても、品質の良くないタバコの収穫に直面しなければならない年もありうるのである。その結果、良い又は悪い作物年という表現がうまれてくる。 常に自然と向き合わねばならない葉巻メーカーは、質の良いたばこ葉の生産はもちろんのこと、その質の一貫性を保つために多大な努力をする。今年は葉巻が不作で商品として市場に送り出せないでは、葉巻メーカーとして存在できない。作物年の良し悪しがコントロールできないのであれば、不作の年の供給不足を防ぐために、質の良いたばこ葉を十分にストックすることによって葉巻の質をコントロールする。幸いにして、知識を持つ葉巻メーカーはこの問題を首尾よくこなしている。
同じ製造日、同じコードをもつある葉巻ブランドの視覚的な違いラッパーの色が表す通り、フレーバー・プロファイルもあきらかに違う。フレーバー・プロファイルは違うが、双方とも美味しかった。
葉巻メーカーは、2つの要素を兼ね備えた一貫して上質な葉巻の生産のため、できることはすべて行うだろう。そして次にメーカーが夢見てやまないこと、それがブレンドの一貫性である。すなわち自社ブランドの独自のフレーバー・プロファイルの確立である。 同じ箱に詰められた葉巻が、同じようなフレーバー・プロファイルを持っていることは容易に想像できる。しかし、その葉巻ブランドの葉巻にすべて一貫したフレーバー・プロファイルを持たせることは非常に困難なことである。実際、ある葉巻ブランドのフレーバー・プロファイルは劇的に変わり、他の葉巻ブランドは徐々に変化している。独断で言わせてもらえば、葉巻が正確に一貫したフレーバー・プロファイルを持つことは、ほとんど不可能な世界だ。 そうなってくると、葉巻専門家といわれる人が、葉巻ブランドの味と風味について述べることを気にするのは全く意味のないことである。彼が吸った葉巻とあなたが吸うつもりの葉巻が正確に同じフレーバー・プロファイル持っている可能性はほとんどない。したがって、「後半のウッディな味からナッツ味の風味まで変化する葉巻」のようなコメントは大きく割り引いて受け取るべきだ。初心者ではない葉巻愛好家であるあなたが同じ味覚経験を得られなかった場合、その葉巻が悪かった訳でもましてやあなた自身のせいでもなく、単にまったく同じではないフレーバー・プロファイルを持つ葉巻だったと理解するべきだ。どのフレーバー・プロファイルが正しいか、あるいはより良いかという疑問は、また別の、無限に議論のある問題である。
1つの葉巻ブランドのフレーバー・プロファイルには想像するより幅があることを一旦承知してしまえば、葉巻ブランドがいつもその味を一貫しているという信念は神話となる。その神話は、理解できる明白な理由のために、メーカー自身、そして葉巻について書くことで生業をたてる、いわゆる「葉巻ソムリエ」によって創りだされた自身の願望を底辺にした思い込みに近いかもしれない。昨今の限定品ラッシュには、葉巻メーカーの神話からの逃避が感じられる。一貫したフレーバー・プロファイルの幅を狭めすぎて、身動きがとれなくなった結果、違うブランド商品として限定で市場に出してしまう。こんなに楽なことはない。限定なのだから来年のことを考える必要はないし、品質保持のためのタバコのストックも必要ない。もちろん、マーケティングの戦略として選ばねばならなかった方法に違いないが、過度にこの方法に頼ると、長い時間をかけて得たブランドとしての価値を失いかねない。
一貫性が葉巻の品質の決定に重要であることは間違いない。しかしながら、フレーバー・プロファイルの幅が葉巻の欠点かといえば、それは大きな間違いである。現実、私にとって、葉巻の最も魅惑的な要素のひとつは、同じ葉巻ブランドであろうと、どの1本の葉巻も同じでないことにある。1本ずつ一貫していない微妙に違うフレーバー・プロファイルに出会い、違う経験を持つことができる。1本ずつに光や風や大地、そして人の手の暖かさを感じる。これが他のたばことは違うプレミアムシガーの醍醐味である。時には、箱に記されている製品番号や製造日を読み、その葉巻ブランドが持つ幅のあるフレーバー・プロファイルを楽しむのは、考えてみればかなり高度で贅沢な遊びではないだろうか?